父は同族会社の社長で、会社の業績は好調で私が長男であることもあり、私は父の会社に入って会社経営を父から学んでいました。私の弟は、会社経営には興味がなく、会社勤めのサラリーマンをしていました。母が何年か前に死去した際、長男である私が会社を継ぐようにと父から言われ、兄弟で話をしたときにも私が会社を継ぐことに弟も同意していましたので、順調に事業承継も進んでいると思っていました。しかし、父が突然体調を崩したまま死去しました。会社の顧問税理士に父の相続税申告をお願いしたところ、同族会社の株式は全て父のものとなっていたこともあり、高額な相続税を支払わなければならないと指摘されましたので、納税資金の相談をすると、私が父の株式を相続し、その株式を同族会社から自社株買いすることにより捻出できると言われました。弟との遺産分割協議でこの話をした際、大きな財産は自社株のみであることから、弟は「自分も自社株を相続して資金化したい」と主張してきました。弟は、株式の半分を相続した上で現金化したいとのことでしたが、会社には相続税の納税資金分ほどしか預貯金がありませんので、話がまとまりませんでした。遺産分割協議は円滑に進むと思っていましたので、話し合いが相続税の申告期限直前となってしまい、遺産分割協議が相続税の申告期限までに終了せず、納税資金の見通しがつかないまま、未分割の状況で申告を行うこととなってしまいました。父の存命中に、何らかの対策を講じておくべきだったのでしょうか?

 

Q.
 父は同族会社の社長で、会社の業績は好調で私が長男であることもあり、私は父の会社に入って会社経営を父から学んでいました。私の弟は、会社経営には興味がなく、会社勤めのサラリーマンをしていました。母が何年か前に死去した際、長男である私が会社を継ぐようにと父から言われ、兄弟で話をしたときにも私が会社を継ぐことに弟も同意していましたので、順調に事業承継も進んでいると思っていました。しかし、父が突然体調を崩したまま死去しました。
 会社の顧問税理士に父の相続税申告をお願いしたところ、同族会社の株式は全て父のものとなっていたこともあり、高額な相続税を支払わなければならないと指摘されましたので、納税資金の相談をすると、私が父の株式を相続し、その株式を同族会社から自社株買いすることにより捻出できると言われました。弟との遺産分割協議でこの話をした際、大きな財産は自社株のみであることから、弟は「自分も自社株を相続して資金化したい」と主張してきました。弟は、株式の半分を相続した上で現金化したいとのことでしたが、会社には相続税の納税資金分ほどしか預貯金がありませんので、話がまとまりませんでした。遺産分割協議は円滑に進むと思っていましたので、話し合いが相続税の申告期限直前となってしまい、遺産分割協議が相続税の申告期限までに終了せず、納税資金の見通しがつかないまま、未分割の状況で申告を行うこととなってしまいました。父の存命中に、何らかの対策を講じておくべきだったのでしょうか?

A.
 父が全てを有していたという株式については、遺産分割協議が成立するまで、法定相続人である兄弟で共有することとなります。したがって、遺産分割協議が成立するまでの株主権の行使は、株式の共有持分の過半数をもって定めると、過去の判例ではされています。ご質問のケースでは、過半数を有する者がいませんので、同族会社の同意なしには議決権の行使も難しいでしょう。
 また、未分割の場合、次に述べる自社株譲渡の特例や、相続税の計算において、非上場株式等に係る相続税の納税猶予、小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減といった税負担が軽くなる特例が適用されません。
 同族会社による自社株の買取は、譲渡した個人株主の税額算出において、譲渡対価の一部が配当とみなされ、総合課税の対象とされ、超過累進税率によって課税されます。ただし、相続税を負担した個人株主が相続で取得した自社株を発行会社に譲渡した場合における次の特例が存在します。
1.相続税額の取得費加算特例
 相続か遺言で取得した自社株を、相続開始日の翌日より3年10カ月以内に譲渡した場合、次の計算式で算出した金額を譲渡取得の取得費に加算できますので、譲渡の税金の負担を軽くすることができます。
 株式を譲渡した個人の相続税額× 相続税の課税価格に算入された譲渡した自社株の相続税評価額/株式を譲渡した個人の相続税の課税価格(債務控除前の課税価格)
2.相続人が株式を発行会社に売却した場合におけるみなし配当の特例
 相続税の負担のない個人株主については、自己株式の譲渡であることから、配当課税とされます。しかし、相続か遺贈で財産を取得した個人で相続税額の負担のある者が、相続開始日の翌日より3年10カ月以内に、その取得した自社株を発行会社に譲渡した場合、株主は自己株式の譲渡であるものの、配当課税ではなく株式分離課税とされます。
 これらの特例は、相続か遺贈で取得した株式を対象としていますので、遺言が存在しない場合、特例の適用期限までに遺産分割協議を成立させて、譲渡を実行しなければなりません。ご質問のケースにおいて、遺留分を侵害しない遺言書を父が作成していれば、円滑にご質問者への事業承継が進み、納税資金を確保するための自社株買いも申告期限内に実行できていたでしょう。自社株の相続については、特例や留意点が少なくありません。税理士等の専門家に相談した上で具体的な対策を講じ、実行に移すといいと思われます。

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