私の父は医療法人を経営する医者でしたが、先日死去しました。私は一人息子で勤務医でしたが、昨年より父の医療法人で仕事をしており、その法人を引き継ぐ予定です。父は存命中より、自分に何かあっても法人に資産があるので心配しなくていいと話していました。実際に父の給料は多くはありませんでしたので、法人については決算書によると純資産がかなり多くなっています。相続税を計算してみると、父が出資した医療法人は出資持分の定めのある医療法人で、出資金は5億円の評価になるとのことです。母も既に死去しているため相続税の配偶者控除がとれませんので、その他の財産を含めると相続税は約2億5,000万円に上ります。税理士に相談したのですが、父の意向に沿って出資金を法人に払い戻し請求して納税資金に充当しようとすれば、払い戻しを行った金額に対して約半分の税金が課せられると分かりました。他の医療法人においては、死亡退職金を準備する、MS法人を活用するといった納税資金対策を講じているようですが、そのような対策を講じるべきだったのでしょうか?
Q.
私の父は医療法人を経営する医師でしたが、先日死去しました。私は一人息子で勤務医でしたが、昨年より父の医療法人で仕事をしており、その法人を引き継ぐ予定です。父は存命中より、自分に何かあっても法人に資産があるので心配しなくていいと話していました。実際に父の給料は多くはありませんでしたので、法人については決算書によると純資産がかなり多くなっています。相続税を計算してみると、父が出資した医療法人は出資持分の定めのある医療法人で、出資金は5億円の評価になるとのことです。母も既に死去しているため相続税の配偶者控除がとれませんので、その他の財産を含めると相続税は約2億5,000万円に上ります。
税理士に相談したのですが、父の意向に沿って出資金を法人に払い戻し請求して納税資金に充当しようとすれば、払い戻しを行った金額に対して約半分の税金が課せられると分かりました。他の医療法人においては、死亡退職金を準備する、MS法人を活用するといった納税資金対策を講じているようですが、そのような対策を講じるべきだったのでしょうか?
A.
株式会社であれば、発行会社が自社の株式を買い取ることができ、金庫株と呼ばれています。金庫株は、税務上、売却した株主は配当を受けたものとして扱われ、払い込んだ金額を上回る部分の額は「みなし配当」として配当課税されます。個人の場合には、所得税と住民税で合計最高約55%の税金が課されます。ただし、相続により取得した非上場株式を相続発生後3年10カ月以内にその発行会社に売ったのであれば、「譲渡所得」として約20%の税金とされます。さらに、非上場株式を相続した際に納めた相続税の一部を取得費に加算して収入金額より差し引くことが認められています。したがって、株式会社については、相続発生後に株式の一部を会社に売り、納税資金を準備するのが一般的な選択肢の一つとなっています。
一方、医療法人の場合には、医療法により自己の出資持分を自ら買い取るという発想が存在しません。相続後に出資金の払い戻し請求を行うことは可能であるものの、払い戻しを受けた金額に対しては、「配当課税」となってしまい、「譲渡課税」とはなりません。
したがって、医療法人のオーナーによる納税資金対策は必須です。納税資金対策として、死亡退職金を準備すること、MS法人を活用することが一般的です。
死亡退職金は、500万円×法定相続人の数まで非課税とされています。医療法人で過大な退職金であるとみなされることのないよう、退職金規定を準備しておく、保険などによって退職金の原資を積み立てておくといったことが重要となります。
また、MS法人というのは、メディカルサービス法人の略であり、医療行為以外のサービスを行う株式会社等のことです。具体的には、医療法人が用いる不動産をMS法人が有して家賃を受領する場合などに、資産をMS法人に蓄えることが可能です。そして、MS法人の株式を相続すると、医療法人とは違い、金庫株の特例の適用を受けられます。
さらに、平成26年度の税制改正で、一定の認定を受けた医療法人につき、相続税の納税猶予の適用を受けることができるようになりましたので、この適用を受けることも選択肢の一つとなっています。
いずれにせよ、医療法人を承継する場合、納税資金対策が欠かせませんので、存命中の準備が必要となります。