私は某地方都市の病院の理事長の妻でしたが、夫である理事長と共に医師として病院で懸命に仕事をしてきました。病院は地域一の病院に発展したものの、軌道に乗った直後に夫ががんになり、死去してしまいました。病床の夫は私に、「あなたが理事長となり、後に東京の医学部に通っている息子に後を継がせるように。遺言にはあなたが私の出資持分を相続するよう記載してあるし、私以外に出資持分を持っている者はいないので、安心して大丈夫だ」と言っていました。夫が死去してからすぐに、社員が集まって次の理事長を決める社員総会が開催されました。ちなみに、夫の存命中は社員総会をきちんと開催したことはありませんでした。病院の重要事項を全て決定できるのは、夫が払い込んだ出資持分を相続した私であると思っていました。しかし、社員総会で理事長に選ばれたのは、第三者の理事である医師Bでした。社員総会で「出資持分の全てを相続するのは私である」と主張しましたが、第三者の理事である事務長Aと医師B(いずれも社員)から「多数決で決まりましたので」と言われてしまいました。慌てて弁護士に相談し、医療法人の社員は出資持分にかかわらず、1人1個の議決権を有していることを初めて認識しました。その弁護士に「もはやどうしようもない」と言われました。社員であった夫の大学の恩師も、夫の死去直後に死去していたのでした。医療法人設立時に、社員の重要性につき適切な説明を受けていればこのようなことにはならなかったと後悔しました。夫と私が医療法人の組織のことを理解していなかったために、私は病院を追い出され、現在は出資持分の払戻しの請求につき病院と係争中です。このような事態を防ぐため、夫の存命中にすべきであった対策は、どのようなことでしょうか?

 

Q.
 私は某地方都市の病院の理事長の妻でしたが、夫である理事長と共に医師として病院で懸命に仕事をしてきました。病院は地域一の病院に発展したものの、軌道に乗った直後に夫ががんになり、死去してしまいました。病床の夫は私に、「あなたが理事長となり、後に東京の医学部に通っている息子に後を継がせるように。遺言にはあなたが私の出資持分を相続するよう記載してあるし、私以外に出資持分を持っている者はいないので、安心して大丈夫だ」と言っていました。
 夫が死去してからすぐに、社員が集まって次の理事長を決める社員総会が開催されました。ちなみに、夫の存命中は社員総会をきちんと開催したことはありませんでした。病院の重要事項を全て決定できるのは、夫が払い込んだ出資持分を相続した私であると思っていました。しかし、社員総会で理事長に選ばれたのは、第三者の理事である医師Bでした。社員総会で「出資持分の全てを相続するのは私である」と主張しましたが、第三者の理事である事務長Aと医師B(いずれも社員)から「多数決で決まりましたので」と言われてしまいました。
 慌てて弁護士に相談し、医療法人の社員は出資持分にかかわらず、1人1個の議決権を有していることを初めて認識しました。その弁護士に「もはやどうしようもない」と言われました。社員であった夫の大学の恩師も、夫の死去直後に死去していたのでした。医療法人設立時に、社員の重要性につき適切な説明を受けていればこのようなことにはならなかったと後悔しました。夫と私が医療法人の組織のことを理解していなかったために、私は病院を追い出され、現在は出資持分の払戻しの請求につき病院と係争中です。このような事態を防ぐため、夫の存命中にすべきであった対策は、どのようなことでしょうか?

A.
 相続発生前の社員は、理事長である夫、理事であるご質問者、理事長の大学の恩師である監事、第三者の理事である事務長A、第三者の理事である医師Bでした。そして、夫、ご質問者、監事の議決権は計3個で、A、Bの議決権は計2個でした。
 一方、相続発生後の社員は、理事であるご質問者、第三者の理事である事務長A、第三者の理事である医師Bとなりました。ご質問者の議決権は1個で、A、Bの議決権は計2個となり、第三者グループ合計の議決権がご質問者の議決権を上回ってしまいました。

 社団医療法人の組織は、次のもので成り立っています。
1.社員
2.社員総会
3.理事及び幹事(役員)
4.理事会(役員会)
 上記の1と2は、株式会社の組織とは違う部分があります。
 社員については、株式会社については単なる会社の従業員が思い起こされますが、社団医療法人においては法人の構成員のことを社員といい、株式会社における株主に相当します。社団医療法人を構成するのは「人」で、この構成員である人を社員と呼びますので、社員は自然人である必要があり、株式会社などの営利企業が社員になることは認められていません。
 社員は株主と類似しているものの、大きな相違点もあります。株式会社の株主は、株式数に応じて議決権が変わります。一方、社団医療法人の社員は、出資持分の金額等とは関係なく、議決権は1人1個です。
 また、社員総会は、社員により構成され、社団医療法人において最高の意思決定機関とされています。社員総会は、株式会社における株主総会に相当します。しかし、社団医療法人においては、出資金額にかかわらず、社員1人が1個の議決権を有しており、頭数での多数決で動いています。そして、出資持分を有する者が社員になれるというわけではなく、出資持分を有していない場合にも社団医療法人の定款に定めることにより社員になることができます。
 医療法人の設立時に、社員、社員総会、理事、幹事、理事会に関する適切な説明を受けることなく、節税を目的として設立するケースがしばしば見受けられます。また、力のある理事長が存命している間は、社員総会や理事会が形骸化され、形式的な書面上の会議となっている場合が少なくありません。このようなことから、社団医療法人の社員の地位や権限について認識されていないことが多く、ご質問のケースのように、社員の議決権が1人1個であり、頭数での多数決によって社団医療法人の重要事項を決定することが可能であるという現実を認識しないままで運営されていることがあります。理事長である夫は、出資持分を確保できれば自らの医療法人は安泰であると考えていました。
 ご質問のケースについては、相続発生後のことを考慮し、理事長が存命している間に2人の親族を入社させておけば、過半数に届かないという事態は防げたはずですが、当初から、自身の味方となる親族以外の第三者を社員としない方が賢明だったといえます。
 自らの社団医療法人の社員構成につき、これまで関心が全くなかったのであれば、組織の見直しを行い、相続発生によって運営に支障が出ることのないよう備えるといいでしょう。

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