90歳の父が先日死去しました。母は既に死去しており、長男である私が父の介護をしていました。子供は私の他に、次男と長女がいます。相続税の申告作業中に、父のかつての通帳から現金の引き出しを確認していた際に、弟から指摘を受けました。父の預金1,000万円を解約して私名義となっていましたが、「認知症の疑いがあった父の預金を勝手に引き出すのは、横領ではないのか」と非難されてしまったのです。私は父の通帳を預かり、施設の管理料や生活費を代行して支払い、管理してきました。父の世話をするのは体力的にもかなり厳しかったということもあり、3年前にそのときのみ父の定期預金を解約して私の預金としていました。私の立て替えたお金の回収や以後の支払いのためには、私名義の口座に入っていると便利だと思ったからです。家庭裁判所での調停となって、かつて引き出した1,000万円については遺産分割の対象として兄弟で分けるようにということでした。弟から「横領」と非難されたことが忘れられず、介護の苦労も認めてくれず、悔しい気持ちになってしまいます。私のやってきたことに、問題があったのでしょうか?

 

Q.
 90歳の父が先日死去しました。母は既に死去しており、長男である私が父の介護をしていました。子供は私の他に、次男と長女がいます。相続税の申告作業中に、父のかつての通帳から現金の引き出しを確認していた際に、弟から指摘を受けました。父の預金1,000万円を解約して私名義となっていましたが、「認知症の疑いがあった父の預金を勝手に引き出すのは、横領ではないのか」と非難されてしまったのです。私は父の通帳を預かり、施設の管理料や生活費を代行して支払い、管理してきました。父の世話をするのは体力的にもかなり厳しかったということもあり、3年前にそのときのみ父の定期預金を解約して私の預金としていました。私の立て替えたお金の回収や以後の支払いのためには、私名義の口座に入っていると便利だと思ったからです。
 家庭裁判所での調停となって、かつて引き出した1,000万円については遺産分割の対象として兄弟で分けるようにということでした。弟から「横領」と非難されたことが忘れられず、介護の苦労も認めてくれず、悔しい気持ちになってしまいます。私のやってきたことに、問題があったのでしょうか?

A.
 父の同意もないままに、預金を勝手に引き出し、自分のものにしてしまったことに問題があります。認知症であれば、意思能力がなく、生前贈与を行うことができません。成年後見制度や民事信託を活用することにより、父はご質問者に預金を信託し、信託監督人を設定して適切に管理しておくべきでした。

 知的障害や認知症といった理由によって判断能力が下がってしまった場合、預貯金や不動産などの管理や、介護施設の契約締結、遺産分割協議が難しいことがあります。このように判断能力が不十分となってしまった人を支援する制度が「成年後見制度」であり、この制度は「任意後見制度」と「法定貢献制度」の二つに大別できます。
 任意後見制度は、まだ自らが意思能力を有するうちに任意後見人を選ぶ制度のことです。一方、法定後見制度は、実際に意思能力を持たなくなってしまったときに家庭裁判所に成年後見人を申し立てる制度のことであり、状況により「後見」・「保佐」・「補助」の3段階が存在します。法定後見制度については、家庭裁判所に申し立てを行い、後見人を選定してもらわなければなりません。そして、後見人となれば、その後は毎年家庭裁判所に財産状況などの報告を行う義務を負います。
 近年、「信託」という言葉がさまざまな場面において用いられます。「民事信託」というのは、信託銀行等の専門家にではなく、家族に資産を預けて管理してもらう制度のことです。もともとの財産の保有者である人を委託者、財産の管理を委託される人を受託者、財産からの利益を受ける人を受益者と呼びます。そして、受託者に預ける財産を信託財産(預貯金や不動産など)と呼びます。
 例えば、高齢のために財産の管理や処分を行うことに不安を感じる人が、老後の生活に備え、自分の預金を長男に信託すると、口座名義人は長男となります。そして、長男が通帳を管理し、これを受益者である本人(父)のために用います。このような内容の信託契約を締結しておけば、そのとおりにすることが可能となります。後見制度とは異なり、家庭裁判所を通すことなく契約できますので手軽ではありますが、受託者を信頼できる人にすることが重要です。
 なお、受託者が適切に信託財産を管理し、用いているか否かを確認するため、信託監督人を設定するケースも存在します。信託管理人は、税理士や弁護士、司法書士といった第三者にします。受託者を監督するため、安心感を得られます。

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