私の家は地元で有名な大地主です。曽祖父の相続時には長子相続ということでトラブルは発生しなかったようですが、祖父の相続時にはかなりもめて、長男である父は嫁に出た叔母たちに土地がいかないようかなり苦心したようです。それは、相続時に叔母たちに土地を渡したことが周囲に知られて「たわけ(田分け)者」と呼ばれることを恐れていたからです。祖父の遺産については、叔母たちに金銭を相続させ、自らの相続税は地代や家賃の収入から納めることによって、土地をどうにか守りきったようです。先日、父が死去しました。父は祖父の相続で多額の相続税を納めましたが、倹約して長男である私と妹にかなりの預貯金を残してくれました。父には申し訳ないものの、土地に執着のない私は、その預貯金で相続税を納めた後、残金と不動産を妹と折半すればいいと思っていました。しかし、父の顧問弁護士からの連絡で、父が「不動産は全て長男に、預貯金は全て長女に」という遺言書を書いてあったことが判明しました。この遺言書の日付は祖父の相続が解決した時期のものでしたので、父の気持ちも理解できます。しかし、土地の評価額が下がってしまったことも影響して、金融資産の額が不動産の評価額を上回ってしまっているのが現状です。遺言どおりでは私があまりにも不利であること、土地を売却しなければ相続税を準備できないことなどを妹に話しましたが、妹は「不動産は必要ない。遺言どおりで問題ない」と主張するばかりで、聞く耳を持ちません。弁護士は、遺留分の侵害もないのでこのまま遺言書の執行に着手すると通知してきています。気が進まないまま土地の売却の準備をし始めたものの、これが父の本当の意思であったのか疑問です。父は遺言書を残すに当たり、配慮が足りなかったのでしょうか?
Q.
私の家は地元で有名な大地主です。曽祖父の相続時には長子相続ということでトラブルは発生しなかったようですが、祖父の相続時にはかなりもめて、長男である父は嫁に出た叔母たちに土地がいかないようかなり苦心したようです。それは、相続時に叔母たちに土地を渡したことが周囲に知られて「たわけ(田分け)者」と呼ばれることを恐れていたからです。祖父の遺産については、叔母たちに金銭を相続させ、自らの相続税は地代や家賃の収入から納めることによって、土地をどうにか守りきったようです。先日、父が死去しました。父は祖父の相続で多額の相続税を納めましたが、倹約して長男である私と妹にかなりの預貯金を残してくれました。父には申し訳ないものの、土地に執着のない私は、その預貯金で相続税を納めた後、残金と不動産を妹と折半すればいいと思っていました。
しかし、父の顧問弁護士からの連絡で、父が「不動産は全て長男に、預貯金は全て長女に」という遺言書を書いてあったことが判明しました。この遺言書の日付は祖父の相続が解決した時期のものでしたので、父の気持ちも理解できます。しかし、土地の評価額が下がってしまったことも影響して、金融資産の額が不動産の評価額を上回ってしまっているのが現状です。遺言どおりでは私があまりにも不利であること、土地を売却しなければ相続税を準備できないことなどを妹に話しましたが、妹は「不動産は必要ない。遺言どおりで問題ない」と主張するばかりで、聞く耳を持ちません。弁護士は、遺留分の侵害もないのでこのまま遺言書の執行に着手すると通知してきています。気が進まないまま土地の売却の準備をし始めたものの、これが父の本当の意思であったのか疑問です。父は遺言書を残すに当たり、配慮が足りなかったのでしょうか?
A.
遺言書は、それを残す者の意思を尊重すべきものですので、誰に何を与えるかはその者の自由です。しかし、相続人間におけるトラブルを最小限とするためには、次のことを確認した上で分配することが重要です。
○遺留分の侵害はないか。
○相続人全てが、各々に相続税を金銭で一括して納めることができるか。
遺言書がない場合において各相続人に認められている取り分のことを相続分と呼ぶのに対し、遺留分というのは遺言書があっても各相続人が最低限主張できる取り分のことです。
○相続人が配偶者のみである場合…相続分は1、遺留分は2分の1
○相続人が配偶者と子供である場合…相続分は配偶者が2分の1で子供が2分の1(2人以上の場合は人数で割る)、遺留分は配偶者が4分の1で子供が4分の1(複数の場合は人数で割る)
○相続人が配偶者と親である場合…相続分は配偶者が3分の2で親が3分の1(2人の場合は2で割る)、遺留分は配偶者が3分の1で親が6分の1(2人の場合は2で割る)
○相続人が配偶者と兄弟姉妹である場合…相続分は配偶者が4分の3で兄弟姉妹が4分の1(2人以上の場合は人数で割る)、遺留分は配偶者が2分の1で兄弟姉妹にはなし
○相続人が親のみである場合…相続分は1、遺留分は3分の1(2人の場合は2で割る)
仮に遺留分を侵害する遺言があったとしたら、遺留分の減殺請求によって一方の相続人が他の相続人等より不足分を取り戻せるものの、この減殺請求について金銭で解決することを選んだ場合には、減殺請求を受ける側はその資金を調達できず不動産の処分をせざるを得なくなる恐れがあります。 また、相続税は原則として金銭一括納付が必要ですが、遺言によってもらったのが不動産のみであれば、納税のために資金を調達しなければなりません。延納によって相続税を分割払いするという選択肢も存在するものの、担保提供が可能なものがなければ、延納も困難です。
このようなことから相続開始後に土地を売り急いでしまうと、売りやすい土地から切り売りする事態にもなりかねず、また、買主に足元を見られて買い叩かれてしまう可能性もあります。そして、相続登記に必要な登記費用やその後の固定資産税、建物については修繕費というように、不動産については費用がかさむものです。このことも考慮した上で、各々の相続人に不動産と金融資産をバランスよく相続させることも検討することが重要です。
書く者に意思能力があれば、遺言書を何回でも書き直すことができます。遺言書を書いた時点の試算では上記の遺留分や相続税に関する留意点に問題がなかった場合においても、それ以降、財案の増減や市場価格の変動、相続人が先に死去してしまったというような相続人の異動により、実情にそぐわない遺言書となっていることもあります。1年に1回程度、相続財産と相続税を試算し、遺言書を見直すといいでしょう。