夫と私は夫婦で起業し、中小企業ながら年商20億円の会社となりました。息子は2人で、長男はアメリカの大学に留学して医師となり、アメリカ人女性と結婚してアメリカで生活しています。次男は夫の後継者として家業の手伝いをしてくれ、また、私たちと同居してこれまで世話をしてくれました。夫は自らの金融資産や不動産といった資産の大半を会社に注ぎ込んでいたことから、後継者である次男に財産を残す公正証書遺言を作って死去しました。夫は存命中にしばしば次のような話を私にしていました。「長男にはアメリカ留学に当たって多額の資金援助をした。私や母さんの生命保険まで解約し、家中のお金をかき集めて大変だったけど、アメリカで財も名誉も得て援助したかいがあった。長男はとても頑張ったと思う。次男は私たちと同居し続け、結婚してからこれまで夫婦水入らずの生活ができなくても不平不満も言うことなく、気の毒だった。次男には会社から給料をそれほど出せなかったので貯金も多くないはずだ。会社と一緒に頑張ってきてくれた従業員を私が死んだ後も守るため、次男に私の財産を残しても、長男が不満を口にすることはないはずだ。母さんも自らの給料で蓄えた財産があるので、私の財産をもらわなくても構わないだろう」夫の死去後、2人の息子たちに遺言書を見せると、長男は「お父さんは俺がかわいくなかったのだろうか」と激怒し、次男に遺留分の請求を行いました。夫が存命中に兄弟仲良くするようにと言っていたことを長男に説明しましたが、「それはお母さんの作り話ではないのか。同居している次男がお父さんに頼んで書かせたのだろう。俺は日本に帰りたかったものの、弟夫婦に対する遠慮から帰国しなかった。それをいいことに、弟に仕組まれた」と言って譲りません。その結果、長男は遺留分に相当する現金を弟からもらってアメリカに帰りました。それ以降、日本に帰国したら必ず父の不満を私に言い、弟には内緒で生前に贈与しろとか、遺言を書けと私に言いますので、困惑しています。友人にこのことを伝えると、夫は存命中に話していたことを遺言書に書かなかったのではないかと指摘されましたので、遺言書の見直しをしました。そして、「付言事項」には書いておいてほしかったことが全く書かれていなかったと知りました。付言事項がもし違ったものであれば、長男が激怒したり私を困惑させたりすることもなかったでしょうか?

 

Q.
 夫と私は夫婦で起業し、中小企業ながら年商20億円の会社となりました。息子は2人で、長男はアメリカの大学に留学して医師となり、アメリカ人女性と結婚してアメリカで生活しています。次男は夫の後継者として家業の手伝いをしてくれ、また、私たちと同居してこれまで世話をしてくれました。夫は自らの金融資産や不動産といった資産の大半を会社に注ぎ込んでいたことから、後継者である次男に財産を残す公正証書遺言を作って死去しました。夫は存命中にしばしば次のような話を私にしていました。「長男にはアメリカ留学に当たって多額の資金援助をした。私や母さんの生命保険まで解約し、家中のお金をかき集めて大変だったけど、アメリカで財も名誉も得て援助したかいがあった。長男はとても頑張ったと思う。次男は私たちと同居し続け、結婚してからこれまで夫婦水入らずの生活ができなくても不平不満も言うことなく、気の毒だった。次男には会社から給料をそれほど出せなかったので貯金も多くないはずだ。会社と一緒に頑張ってきてくれた従業員を私が死んだ後も守るため、次男に私の財産を残しても、長男が不満を口にすることはないはずだ。母さんも自らの給料で蓄えた財産があるので、私の財産をもらわなくても構わないだろう」
 夫の死去後、2人の息子たちに遺言書を見せると、長男は「お父さんは俺がかわいくなかったのだろうか」と激怒し、次男に遺留分の請求を行いました。夫が存命中に兄弟仲良くするようにと言っていたことを長男に説明しましたが、「それはお母さんの作り話ではないのか。同居している次男がお父さんに頼んで書かせたのだろう。俺は日本に帰りたかったものの、弟夫婦に対する遠慮から帰国しなかった。それをいいことに、弟に仕組まれた」と言って譲りません。その結果、長男は遺留分に相当する現金を弟からもらってアメリカに帰りました。
 それ以降、日本に帰国したら必ず父の不満を私に言い、弟には内緒で生前に贈与しろとか、遺言を書けと私に言いますので、困惑しています。友人にこのことを伝えると、夫は存命中に話していたことを遺言書に書かなかったのではないかと指摘されましたので、遺言書の見直しをしました。そして、「付言事項」には書いておいてほしかったことが全く書かれていなかったと知りました。付言事項がもし違ったものであれば、長男が激怒したり私を困惑させたりすることもなかったでしょうか?

A.
 遺言には、遺産の分け方を記すだけでなく、「付言事項」というメッセージ欄を設けることができます。付言事項には法的拘束力はなく、この欄に遺言者の相続人等関係者へのメッセージを記すことになります。恥ずかしいから、又は、面倒だからと、一般的な定型文句で記すというケースが少なくありません。ご質問のケースにおいても、付言事項には次のように記されていました。
 「私は恵子という良き伴侶と2人の立派な息子に恵まれて、幸せな人生を送ることができたと心から感謝しています。恵子には、大西株式会社を始めてから今日まで、会社と家庭の両立で一方ならぬ苦労をかけました。アメリカに渡り、めったに日本に帰ることがなかった長男一郎に代わり、次男二郎は私の傍らで大西株式会社の発展に尽くしてくれました。また、二郎の嫁の和子も、私たち夫婦に尽くし、XX家を陰ながら守ってきてくれました。一郎と次郎、これからも兄弟仲良くして、恵子を悲しませるようなことだけはしないでください。最後に、恵子、一郎、二郎、良い人生をありがとう。」

 しかし、この付言事項こそ、文案を慎重に検討することが重要であるといえます。特に、ご質問のケースのように、法定相続分とは違う、偏った相続割合で遺言を書くのであれば、その相続割合による財産の分け方を指定した理由を明確に書いておく必要があります。ご質問のケースでは、ご質問者が故人の代わりに長男に対してその理由を説明しているものの、長男は話を聞こうとしていません。故人が遺言書に自らの想いを記し、その文章が厳粛に読み上げられることで、相続人の心に故人の想いが届くのです。付言事項に想いがきちんと記されていないために、相続する財産の額のみが一人歩きしてしまい、相続人の以降の人生に悪影響が及ぶ可能性もあります。
 また、ご質問のケースでは、遺言に、長男への感謝の言葉がなく、日本に帰ってこないという長男に対する不満とも解される記載がありました。このような不満や悪口は書かないようにする必要があります。そして、長男や長男の嫁に対する感謝の気持ちも記されませんでした。付言事項には、公平に家族の各人に対して愛情を持ち、感謝の気持ちを記すことが大切です。もし、次のような文面であったならば、それを読んだ長男は激怒しなかったものと思われます。
 「一郎、アメリカに渡って名門YY大学を卒業しただけでなく、全米中で名高い医師となったことは、私の喜びであり、誇りです。一郎のこれまでのアメリカでの頑張りを心から尊敬しています。二郎、大西株式会社の後継者として、これまで私と恵子を支え続けてくれたことに感謝しています。一郎と二郎の2人の嫁は、わが家に来てくれた私の大切な娘であり、2人のおかげでXX家は安泰となりました。さて、私の財産についてですが、そのほとんどは大西株式会社に関係しているものです。大西株式会社と従業員とその家族は、私にとってかけがえのないもので、今後大西株式会社を支えてくれる二郎にその財産の全てを託したいと思います。二郎には全財産を相続する代わりに、大西株式会社の存続という重責を背負わせることとなりますが、どうかしっかりと頑張ってください。恵子と一郎には財産をあげることができないのは申し訳なく思いますが、大西株式会社とその従業員を守るためと思ってどうか理解してください。この遺言は、私の大西株式会社の存続を第一に考えて作りました。最後に、恵子、一郎、二郎、素晴らしい家族に恵まれて本当に幸せな一生を送ることができたと心から感謝しています。家族一人一人にありがとうの言葉を残します」

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