私は夫を亡くし、もうすぐ三周忌を迎えます。夫は勤務先の上場会社で取締役にまでなり、4人の娘を全員私立大学まで進学させましたが、1億円近い金融資産と都内一等地に自宅を残してくれました。私の老後を案じた夫は、財産のほとんどを私に相続させ、4人の娘たちには500万円ずつの現金を相続させる旨を遺言に書いてくれ、そのとおり相続しました。しかし、夫が死去した後に、1人で暮らしている私を、娘たちが次から次へと訪ねてきました。次女が訪ねてきた際に、「お母さんにもしものことがあったときには配偶者の軽減がなく相続税が大変」だから、今のうちに贈与して。孫やひ孫に学費の資金を贈与しても贈与税を払わなくていい制度があり、相続税対策になるよ」と言ってきました。そこで、教育資金の一括贈与の制度により1,500万円を次女の孫に贈与しました。このことを知った三女と四女も各々の孫に贈与してほしいと言ってきました。「次女の夫は失業中だけど、あなたたちの夫はお金持ちだから」と言っても納得してくれなかったので、仕方なく彼女たちの孫に贈与しました。その後、それまで何も言わなかった長女が「孫が結婚することになり住宅を購入するから、1,000万円の資金援助をしてあげて」と言うので、「長女だから我慢して」と伝えました。しかし、長女は「お母さんはずっと私だけに我慢させてきた」と泣き出し、「妹たちは1,500万円出してもらったのだから、後で結婚・子育て資金の一括贈与で500万円も贈与して」と請求してきました。夫の残した金融資産がこうして1億円から2,000万円になってしまい、私の唯一の収入である遺族年金は夫がもらっていたときより金額が少なくなっています。自宅の維持費が大変であることや、娘たちとの外食・旅行費用を全て私が払うのが最近では当然のようになっていることから、予想以上の出費となっています。現在は生活費を節約し、2,000万円を維持するようにしています。友人からは「教育資金や生活費はその都度贈与すれば贈与税は払わなくていいので、そんなに高額なお金を一括であげないほうが良かった。相続税もそれほどかからないよ」と言われました。やはり、自らの生活費を節約してまで将来のある若い孫たちに多額の贈与する必要はなかったのでしょうか?

 

Q.
 私は夫を亡くし、もうすぐ三周忌を迎えます。夫は勤務先の上場会社で取締役にまでなり、4人の娘を全員私立大学まで進学させましたが、1億円近い金融資産と都内一等地に自宅を残してくれました。私の老後を案じた夫は、財産のほとんどを私に相続させ、4人の娘たちには500万円ずつの現金を相続させる旨を遺言に書いてくれ、そのとおり相続しました。
 しかし、夫が死去した後に、1人で暮らしている私を、娘たちが次から次へと訪ねてきました。次女が訪ねてきた際に、「お母さんにもしものことがあったときには配偶者の軽減がなく相続税が大変」だから、今のうちに贈与して。孫やひ孫に学費の資金を贈与しても贈与税を払わなくていい制度があり、相続税対策になるよ」と言ってきました。そこで、教育資金の一括贈与の制度により1,500万円を次女の孫に贈与しました。このことを知った三女と四女も各々の孫に贈与してほしいと言ってきました。「次女の夫は失業中だけど、あなたたちの夫はお金持ちだから」と言っても納得してくれなかったので、仕方なく彼女たちの孫に贈与しました。その後、それまで何も言わなかった長女が「孫が結婚することになり住宅を購入するから、1,000万円の資金援助をしてあげて」と言うので、「長女だから我慢して」と伝えました。しかし、長女は「お母さんはずっと私だけに我慢させてきた」と泣き出し、「妹たちは1,500万円出してもらったのだから、後で結婚・子育て資金の一括贈与で500万円も贈与して」と請求してきました。
 夫の残した金融資産がこうして1億円から2,000万円になってしまい、私の唯一の収入である遺族年金は夫がもらっていたときより金額が少なくなっています。自宅の維持費が大変であることや、娘たちとの外食・旅行費用を全て私が払うのが最近では当然のようになっていることから、予想以上の出費となっています。現在は生活費を節約し、2,000万円を維持するようにしています。友人からは「教育資金や生活費はその都度贈与すれば贈与税は払わなくていいので、そんなに高額なお金を一括であげないほうが良かった。相続税もそれほどかからないよ」と言われました。やはり、自らの生活費を節約してまで将来のある若い孫たちに多額の贈与する必要はなかったのでしょうか?

A.
 贈与税を支払うことなく直系卑属に一括して資金を贈与できる制度として、次のものがあります。
○教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度(1,500万円まで非課税)
○結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度(1,000万円まで非課税)
○住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度(年度により非課税の金額が異なる。)
 日本では高齢者が金融資産の大半を有し、若年層は金融資産をほとんど有しないのが現状ですので、政府はこのような政策により、相続まで待たず、又は相続を飛び越えて、高齢者の資産を若年層に移転させ、景気を良くしようとしています。教育資産と住宅取得等資産の贈与については、贈与した際に相続資産から切り離すことができますので、相続税対策として有効だといわれています。一方、結婚・子育て資金の一括贈与については、贈与者が死去したときに使い切ることができなかった残額が存在すると、その残額に相続税が課されます。したがって、相続税の負担を軽くするという観点からは相続対策に向いているとはいえないでしょう。
 扶養義務者相互間で教育費又は生活費に充当するため贈与を受けた財産のうち「通常必要と認められるもの」は、贈与税が課されないことになっています。必要な金額を、必要な都度、直接学校等に払うということが、上記の一括贈与との相違点です。数年分をまとめて受け取って預金のままにしておいた場合や、受け取った現金で不動産や株式を購入した場合には、贈与税が課されます。
 贈与税の課税対象となるような場合、生前贈与は相続税対策として有効です。ただし、ご質問のケースのように相続税対策として多額の生前贈与を検討しているのであれば、自らの相続税の額を算出した後に実行することが重要です。ご質問のケースでは、贈与しなかった場合は自宅が4,000万円、金融資産が8,000万円(計1億2,000万円)ですので二次相続税は790万円となるのに対し、贈与後は自宅が4,000万円、金融資産が2,000万円(計6,000万円)ですので二次相続税は60万円となります。
 相続税の試算後に、相続税の負担が思ったほど大きくないと分かって生前贈与をしないことにする場合もあります。そして、贈与をするのであれば、相続人間におけるトラブルを防ぐため、各相続人に不公平にならないよう配慮する必要があります。相続人のうちの1人やその子供に多額の贈与を行えば、その他の相続人にも同様に贈与しなければならなくなるかもしれません。ご質問のケースでは、次女には次のいずれかによって贈与するべきでした。
○上記のように本当に必要な都度お金を贈与する。
○教育資金の一括贈与制度を活用して最初に贈与するに当たり、より少ない金額を贈与する。

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